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おもろい話やで | 日記
私は、東京地方裁判所刑事8部というところで、三年間、
調査官という仕事をさせていただいたことがある。

ここでいう裁判所調査官の仕事とは、
裁判官や書記官の方に、税務に関する調査を依頼されたら、
それに答えるということである。

答え方は、様々で、その場で口頭ですることもあれば、
数日間かけてレポートにまとめることもある。


行政府での仕事と違って、ある意味、楽であり、
ある意味かなりプレッシャーのかかる仕事であった。

楽という意味は、手続き面である。

行政府の場合、最終的に決まるまで
何人もの上司にチェックを受けなければならない。
しかも、上にいけばいくほど、
説明をするための資料作りやスケジュール調整に時間がかかる。

まさに、車田正美先生原作の格闘漫画
”リングにかけろ”や ”聖闘士星矢”さながら、
本丸の敵と闘う前に、
次々と現れる敵を順番に倒していかなければならないように。


一方、裁判所の場合、裁判官は各々独立した存在なので、
調査依頼をされた裁判官に直接お答えすればよいのである。

ただ、これがプレッシャーとなる原因でもある。
全責任は自分が負うことになるからである。
これが行政府だと、責任が分散され、その所在はあいまいとなる。


なお、刑事8部とは、脱税事件のすべてを扱う部であるが、
もちろん窃盗や傷害といった他の刑事事件も扱っている。


さて、私は、すべての脱税事件の公判を傍聴していた。
公判時のやりとりについて、後に裁判官や書記官の方から
質問をされることがあるからである。

裁判所職員ではあったが、バーの中には入れなかった。
つまり、傍聴席にしか座れなかった。
そこで、傍聴時に体験したおもしろ話をいくつか紹介。

私は、当初、裁判の手続きを勉強しようと、
他の事件も傍聴するようにしていた。

ある日、傍聴した事件。
それは、強盗致傷事件で、
被告人の精神状態が正常かどうかが争点となっていた。

裁判長は、まず、目の前にいる人物が被告人本人かを確認する。
そして、その確認のための手段の一つとして、
本籍地を確認する。

裁判長が問う。
『本籍地は?』

被告人が答える。
『海王星です。』

裁判長が真顔で切り返す。
『えっ、福島県じゃないの?』

傍聴席には、確かに、
まったく聞こえることのない笑いが起きた。

それは、序章にすぎなかった。

今度は、弁護士が、やはり真顔で被告人に質問する。
『あなたは、犯行時、悪魔に操られたといっていますが、
 その悪魔は今どこにいますか?』

被告人が答える。
『200万光年彼方のアンドロメダ星雲です。』

  この被告人、
  おそらく冥王星が準惑星に降格したことも知っている。
  天体には詳しそうだな。

弁護士は続けた。
『その悪魔とあなたとでは、どちらが偉いのですか?』

被告人は懲りずに答える。
『力はむこうのほうが上ですが、地位は私のほうが上です。』


私が、脱税事件以外の事件を傍聴したのは、この事件を含め
二件のみであった。
もう一つの事件は、女性が男性にストーカー行為をしという事件。
男性が女性に、ではない。
公判では、いつホテルに行ったとか、行かなかったとか、
いつやったとか、やらなかったとか、赤裸々に語られる。

この公判は、”人気”があったので、満席になった時点で退室したが、
あとで検察官の方からツッこまれてしまった。

『調査官、なんでいたんですか?』

検察官のほうも、
刑事8部担当といったように決まっていたので、
私の面もわれていたのである。

それから、私は、脱税事件以外の傍聴を止めた。


脱税事件は、”人気”がない。
そんな”人気”のない脱税事件でも、
傍聴席が埋まっていたことが二回あった。

まず、一つめだが、
裁判官が法廷に入るやいなや、おもむろに口を開いた。

『傍聴席のみなさんに申し上げます。』

  えっ?

裁判官が傍聴席に直接話しかけるのは滅多にないことである。

『次の事件を傍聴される方は、すぐに退室して下さい。』

次の事件がわいせつ系の事件だったのである。
わいせつ系事件は、”人気”がある。
ストーカー事件でさえ、あれだけ赤裸々に語られたのだから、
ましてや、わいせつ系は…

だから、私と、被告人の関係者の方以外、
”傍聴者”は全員、そそくさと退出した。
つまり、彼らは、場所とりのため、
聞く気もない脱税事件を傍聴しようとしていたのである。

脱税事件の公判が終わって、外に出ると、
廊下には、男だらけの長蛇の列。

『も、もう終わった?』

と、その列の先頭にいた、常連の男性が
待ちわびたかのように、そして、どもりながら、
私に問いかけてきた。


被害者女性からすると、本当に忍びがたいところであろう。

こうした不届きな ”傍聴者”は、
その日に公判がある事件名を確認してから傍聴にやって来る。

だから、本日の公判事件の欄には、
強盗など他の罪にも問われている事件の場合、
わいせつ系の事件名は、”等”と表示することで、
なるべく分からないようにすることもあるらしい。


脱税事件にもかかわらず、
”人気”のあった事件をもう一つ。

公判が行われる部屋の扉を開けると、
大きな法廷であったにもかかわらず、
傍聴席がほぼ満員だった。
わいせつ系の事件かと思って、いったん外に出て、
事件名を確かめたくらいだ。

もう一度法廷に入ってよく見ると、
一角だけ開いていた。
ラッキー、とそそくさと座った瞬間、

  今日は、なんか、お化粧が濃いめの、
  綺麗な女性が多いなー。

と、のん気に思ったのもつかの間、私の耳奥から、

  チャララーン、チャララーン

というヤクザ映画定番のあの音色が聞こえてきた。

周りには強面の方々が私を取り囲むようにして
お座りになっている。

カタギの方たちは、私にいる場所とは反対側。
今さら、カタギ席には移動できなかった…

そして、被告人が入廷すると、
みなさん一斉に起立してご挨拶。
普通は、裁判官が入廷するときに起立して礼をする。

この事件は、地方税の軽油引取税の事件で、
不正軽油がらみなので、暴力団が関与していることが多い。

石原慎太郎代表が都知事になってから、
不正軽油取締り強化の一環で、
脱税の取締りも強化するようになり、
それから、起訴されるケースが多くなったらしい。


と、おもしろおかしく書きましたが、
実際の調査官の仕事は地味なものです。
ただ、裁判官の判断を左右しかねない重責ある仕事で、
かつ、自身にとっても勉強になる、
私の二十年以上の役人生活で、
もっともやりがいのある仕事の一つでした。


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